2016.12.09 11:59『淵に立つ』冒頭のメトロノームは、壊れかけの家族の歪みを整えるものなのか、それとも爆発する寸前の時限爆弾が時を数える無機質な音なのか。 一見平凡な家族は、一人の男・矢坂(浅野忠信)の出現によって狂っていく。彼の存在によって元々潜んでいた彼らの本性が露呈していくとでもいったほうがい...
2016.12.09 11:56『この世界の片隅に』私はエスカレーターというものがニガテでして。特に下りが。 大縄跳びと同じ要領で、足を一歩踏み入れるタイミングに戸惑ってしまう。だから基本的に人の流れに逆らって、階段を使う。 車を持っていないから、どこに行くのも自転車や電車。 どこか人の列からはみださずにはいら...
2016.09.07 11:45虚像の虚像『ファブリックの女王』 北欧の人気ブランド「マリメッコ」の創業者、アルミ・ラティア。 「ファブリックの女王」は、その輝かしい偉業を讃える映画ではない。マリメッコのシンプルかつ華やかで可愛らしい絵柄から、お洒落なファッション映画を期待して映画を観た人は間違いなく呆気にとられるだろう。...
2016.08.08 15:31鏡の向こう側『さざなみ』画面上に一切姿を表さない夫の元恋人。ヒッチコックの『レベッカ』のようでもある。夫婦は、何十年も前に死んで突然氷河の中から冷凍されたまま浮かび上がってきた女の存在に翻弄される。彼女の発見とともに、封じ込めていた眩いばかりに輝いていた青春時代の記憶も溶け出した夫。冷凍されたのだから年...
2016.06.13 16:25壁抜け男と理想の家族ー『ル・コルビジュジエの家』ル・コルビジュジエの家。私はル・コルビジュジエが何者かもよく知らないけれど。冒頭、唐突にスクリーンに穴があく。白と黒のコントラスト。ちょっと違う形の穴が不均衡に拡がっていく。等間隔の間を置いて。しばらくするとそれが壁の向こう側とこちら側であることに気付く。登場人物は、世界的な建築...
2016.06.07 15:12ヤドカリ男の見る世界ー『シェル・コレクター』深夜の地震。鳴り止まぬ警報。余震に怯え雨風に怯え、木造アパートで1人震える夜はあまりに怖かったため、しばらくは、部屋にあった布団という布団を引き寄せて過ごした。まるでヤドカリのように。水を蓄え、食糧を傍に置き、いつでも逃げることのできる装備をして。その時思った。「シェル・コレクタ...
2016.06.06 12:16祭りへの憧憬ー『ディストラクションベイビーズ』映画館を出てから、しばらく興奮していた。こんな感覚は何年ぶりだったか、思い出せない。ずっと心の奥底にある田舎出身田舎在住であるという卑屈なわだかまりが、彼らの疼きとともに燻り、昇華され火を吹きそうだった。柳楽優弥演じる泰良は、モンスターだ。なぜなら、その行動に理由がないからだ。理...
2016.05.14 12:21「骨抜きレモ」と『トットてれび』ー『俳優亀岡拓次』『俳優亀岡拓次』の一場面。亀岡(安田顕)が、思いいれのあるスペイン映画のあらすじを電話越しに語る。どこかで学校のチャイムが鳴っている。いつしかそれは、異国の映画の中で鳴っている教会のチャイムの音と重なり、彼は走り始める。その時彼は、日本の路地にいながら、異国の映画の世界を生きてい...
2016.05.10 07:44蜜のあわれ室生犀星という作家。早死にする作家が多い中で、なおも生きながらえてしまった男。映画は、妄想の金魚と遊ぶ主人公の老作家を描くことによって、原作作者・室生犀星の作家像を打ち出していた。もうすぐ死ぬという告知を受けた老人。死への恐怖と淋しさが幽霊の女を呼び寄せ、金魚を人間の姿に変えたの...
2016.05.06 04:11さようなら「ぼく、もういかなきゃなんない」谷川俊太郎の詩を朗読する彼女の声は、アンドロイドでなければならなかった。どんなに達者な朗読家が感情を込めて朗読したとしても、谷川俊太郎本人が朗読したとしても、こうはならなかったはずだ。無機質で感情を持たないロボットの声だったからこそ、荒れ果てた、そ...
2016.05.06 04:07エール!歌を歌うのが好きだ。小さい頃は特に、誰もいない田舎道が私の劇場だった。「美女と野獣」のベルになった気分で「いつかどこかに行きたい、この町の外へ」と歌っていた。踊ることは、残念ながら不器用すぎてできなかったのだけれど。ポーラは、風を感じながら自転車で突っ走る。ウキウキした彼女の頭の...
2016.05.06 04:00さらばあぶない刑事「あぶない刑事」が終わってしまった。ハマる年代としては明らかにおかしいのだけれど、「まだまだあぶない刑事」が上映された時期に予習として全シリーズをDVDで観たことがきっかけで、私が一番はじめに夢中になった映画は「あぶない刑事」だ。彼らは死に向かっていくように見えた。それははじまり...