さようなら

「ぼく、もういかなきゃなんない」

谷川俊太郎の詩を朗読する彼女の声は、アンドロイドでなければならなかった。

どんなに達者な朗読家が感情を込めて朗読したとしても、谷川俊太郎本人が朗読したとしても、こうはならなかったはずだ。無機質で感情を持たないロボットの声だったからこそ、荒れ果てた、それでいてどこか美しい静謐な土地の空気を組み込み、ただ死を待っている女性の心に浸透させる説得力を持っていた。

数百年に一度しか咲かない竹の花。最後の場面は、夏目漱石「夢十夜」の「第一夜」を思い起こさせる。

「きれいなものを見て泣くことがあるのか」と聞いていたアンドロイドは、最後に涙を流したのだろうか。

映画雑感ー本屋時々映画とドラマ

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