ロマンス

山口百恵が好きだ。特に秋から冬にかけての歌が好きだ。「曼珠沙華」、「秋桜」、そして「いい日旅立ち」。

百恵や明菜が好きな女はどこか淋しいのだ。それは身勝手な思い込みだろうか。煌びやかな彼女の目の奥に潜んで見え隠れする孤独の影に魅入られてしまう。

大島優子演じる鉢子の身勝手な母親が口ずさむ曲が「いい日旅立ち」。この映画は、鉢子の母親探しを名目に、鉢子と、偶然知り合った“おっさん”こと桜庭が過去や自分自身と向き合っていく物語である。

ラストが面白い。鉢子は、仕事中に、自殺を危ぶんでいた母親が暢気に新しい男と旅をしているところに遭遇するも変わらぬ笑顔で応対する。桜庭は、ふと交番の前で立ち止まり、それまでの逃げ回る人生を清算するかと思いきや通り過ぎていく。気まぐれな2人旅は彼らの人生を劇的に変えるわけでもなく、ただ自分の過去や現在を受け入れ、少し前を向くための手伝いをしたに過ぎない。映画の舞台であるロマンスカーは、それぞれの日常を生きている人々が一つの非日常な空間に留まり、再びそれぞれの日常に戻っていくという性質を持つ。だから、鉢子と桜庭、それぞれの日常の始まりを描いたラストシーンは、この物語そのものが、ロマンスカーそのものであることを告げている。

大島優子は、AKB48全盛期の2大看板であった前田敦子と並んで昨今のアイドル史を語る上では欠くことのできない存在である。両方ともアイドル卒業後は女優業に専念しているという点でもそうだ。そして、前田敦子が陽なら、大島優子は陰の魅力を持っている。例えば、松田聖子が陽なら、中森明菜は陰、というように。

器用でサバサバしていて、可愛いけれど、プライベートのことになるとどこか不器用でうまくいかない鉢子は、プログラムでタナダユキ監督自身が言及しているように大島へのアテ書きのようだ。そんな大島に陰のアイドルである山口百恵の曲を歌わせるところが、なんだかいい。

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