フレンチアルプスで起きたこと

シークェンスとシークェンスの間に挟まれるヴィヴァルディの「夏」。音楽に合わせるかのように、氷上を整える複数の機械が規則正しく高速に移動していく様を見ていると、普段何気なく見ている日常が非日常に変わり、終始不穏ななにかを感じる。

この映画は、そんな映画だ。

些細なことがきっかけで起こった一家庭の危機。

彼ら以外の登場人物は私たちと同じ観客である。スキー場でのアバンチュールを楽しむカップル、毛深い(?)年の差カップル、そしてホテルでの彼らの様子を静かに見つめている台詞のない従業員の男。

複数の主観ショットが存在するため、ラジコンヘリや、ホテルやスキー場を整える機械までもが意志を持って彼らの動向を見守っているように見える。家族それぞれの視点含め、あらゆる視点が交錯するからこそ、そこにサスペンスが生まれる。

正直言って、私はちょっとイライラしていた。雪崩が起きて自分1人で逃げてしまった夫と、それを根に持って会う人会う人にその話を持ちだす妻。どんどんヒステリックになっていく妻と追いつめられて泣き出す夫。戸惑う子どもたち。

たった5日間しかない休みを楽しめないなんてもったいない!なんで彼らは家族たるもの、のようなものに固執するのだ!?と。所詮他人同士、いい加減にわかりあっていればそれでいい。

だから意外と私も、自由恋愛主義の彼女のように、一人で危険運転のバスに乗っていくタイプなのかもしれない。

夫婦の話を聞いてホテルの部屋を出た後、彼女が彼に向かって「あなただったら?」と聞いたように、映画館を出た人々はきっと誰かと自分の考えを共有したいと思うだろう。私も複数の人にこの映画のことを話さずにはいられなかった。

映画雑感ー本屋時々映画とドラマ

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