百円の恋

映画を観終わった後、喉が渇いてしかたがなかった。冬なのに、ペットボトルの水をがぶ飲みした。

安藤サクラ演じる一子のボクシングには、観客も一緒になって拳を握り、殴られ、泣き叫んだ気分になるような、そんな凄まじさがあった。一子の人生も観客の人生も全部ひっくるめてリングに上がって戦っていた。

最後に「一度でいいから勝ちたかった」と声をあげて泣いた一子。

あの時涙が止まらなかったのは、なぎなたに夢中だった中学3年の夏がフラッシュバックしたからか。仲間と顧問の熱い声援を受けながら、延長戦まで戦い続けて結局負けた、忘れもしない全国大会の、最初で最後の1回戦。

どうして彼女は、自分のことを捨てたダメ男の元に戻っていくのか。そんな男、腹にパンチでもいれて一人でまた走り出せばいい。

だけどそれができないのが人間というか、日本映画の好きなところで。

「最高」な勝利の味を引退試合の時に味わうことのできなかった男と、最初で最後の試合で勝利の味を知らず仕舞いだった女は、結局共鳴するものがあり、それまでの人生と別段変わらない、でも、ちょっとだけ違う人生を生きていくのだ。

「しょせん100円程度の」人生。うーん、なんというか、炙ったスルメのような?

最後に、エンディング曲の「108円の恋」。

105円でもなく110円でもない、今という中途半端な時代、そしてその今を生きるありふれた一人の女の曲。それが耳に無性にこびりついた。

映画雑感ー本屋時々映画とドラマ

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